発表年:1980年
ez的ジャンル:稀代のメロディ・メイカー系MPB
気分は... :新しい時代へ・・・
今回は稀代のメロディ・メイカーIvan LinsのEMI4部作の1枚、『Novo Tempo』(1980年)です。
MPBを代表する男性シンガー・ソングライターIvan Linsの紹介は、『Somos Todos Iguais Nesta Noite』(1977年)、『Modo Livre』(1974年)に続き3回目となります。
本作『Novo Tempo』(1980年)は、『Somos Todos Iguais Nesta Noite』(1977年)、『Nos Dias de Hoje』(1978年)、『A Noite』(1979年)と並ぶEMI4部作の1枚であり、4部作の大トリを務める完結編アルバムです。
この時期のIvan Linsは大物プロデューサーQuincy Jonesを介して彼の作品がUSアーティストに取り上げられ、本国ブラジル以外でIvan Linsの名が広まっていた時期です。
具体的には、George Benson『Give Me The Night』(1980年)収録の「Dinorah, Dinorah」、Quincy Jones『The Dude』(1981年)収録の「Velas」、Patti Austin『Every Home Should Have One』(1981年)収録の「The Island」といったカヴァーです。
しかし、当のIvan Lins本人の目は世界ではなくブラジル国内に向けられていたようです。60年代半ばから続いたブラジルの軍事独裁政権でしたが、1979年に就任したジョアン・フィゲイレード大統領が民政移管を公約します(この民政移管プロセスは1985年に結実)。こうした状況を踏まえた、民政実現への願いが本作には込められています。まさに『Novo Tempo(新しい時代)』の到来を高らかに叫んだアルバムです。
ちなみに本作の裏ジャケには、Ivan Lins本人、作詞家Vitor Martins、アレンジャーGilson Peranzzettaの3人が、「警察対労働者」「インフレ」「失業」といったブラジル社会の歪みを伝える見出しが並ぶ新聞を広げている様子が写っています。
その裏ジャケに写る3名、Ivan Lins、Vitor Martins、Gilson Peranzzettaによる強力トライアングルが、他のEMI4部作同様に素晴らしいIvan Linsワールドを創造しています。
4部作の完結編に相応しいIvan Linsの充実ぶりを堪能しましょう。
全曲を紹介しときやす。
「Arlequim Desconhecido」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「名もなき道化役者」。Dave Grusin/Lee Ritenourが『Harlequin』(1985年)でカヴァーしており、そちらのヴァージョンでお聴きの方も多いかもしれませんね。Vitor Martinsによる社会風刺風の歌詞が印象的です。
http://www.youtube.com/watch?v=LoFsi956d48
「Bilhete」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「伝言」。本作の直後にMPB4、Fafa De Belem、Doris Monteiroといったブラジル人がこぞってカヴァーした名曲。Ivanらしい美しくしっとりとしたメロディと味わい深いヴォーカルを満喫できます。
http://www.youtube.com/watch?v=tboRipMnOTE
「Sertaneja」
Ivan Lins/Vitor Martins作。Gilson Peranzzettaのアコーディオンの美しい響きが印象的です。♪息苦しい程の懐かしさが俺の心を苦しめる♪という歌詞が印象的ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=Q2agkGCeqCY
「Barco Fantasma」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「幽霊船」。ポルトガルの民族音楽ファドのエッセンスを取り入れた1曲。少しノスタルジックな哀愁のメロディがじわじわきます。
http://www.youtube.com/watch?v=SJ9FCH4PXDM
「Setembro (Primeiro Movimento: Antonio E Fernanda)/Caminho De Ituverava」
Ivan Lins/Gilson Peranzzetta作のインスト。Quincy Jones『Back On The Block』(1989年)でカヴァーされていた名曲です。Ivanと/Gilsonが生み出す美しく感動的なサウンド・スケープをじっくり堪能しましょう。
http://www.youtube.com/watch?v=2YvveR9Za8s
「Novo Tempo」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「新しい時代」。新しい時代の到来を待ち望むポジティヴなヴァイヴに溢れたタイトル曲です。未来への希望がそのまま躍動する音になったような素晴らしい1曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=CBL4toiahY8
「Coragem,Mulher」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「女の勇気」。美しく感動的な女性賛歌。ジェントルな中にも力強さを持ったIvanの歌声が女性を勇気づけるはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=w3E3WyjtzWM
「Feiticeira」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「魔法使い」。美しい女性コーラスやGilsonのアレンジ・センスが冴え渡ります。
http://www.youtube.com/watch?v=XF30fFGtlaY
「Vira」
Ivan Lins/Vitor Martins作。邦題「来るべきもの」。IvanらしいメロディにGilson Peranzzettaのアコーディオンがいいアクセントを加えています。
http://www.youtube.com/watch?v=XR59tDUP8oE
「Coracao Vagabundo」
ラストはCaetano Veloso作品のカヴァー。オリジナルは名盤『Domingo』のオープニングを飾っています。軍事政権から危険分子と見なされ、亡命生活を余儀なくされたCaetano Velosoのデビュー作のオープニング曲をエンディングに持ってくるというのが心憎い演出ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=-5sHywcSg5E
Ivan Linsの過去記事やEMI4部作の他作品もチェックを!
『Modo Livre』(1974年)
『Somos Todos Iguais Nesta Noite』(1977年)
『Nos Dias de Hoje』(1978年)
『A Noite』(1979年)
ありがとうございます。
EMI4部作の完結編らしい充実作ですよね。
美しい「Feiticeira」、小粋な「Vira」いいですね。これら2曲もそうですが、改めてGilson Peranzzettaの4部作への貢献の大きさを感じます。
Gilson Peranzzettaとのコンビ解消後のIvan Linsは
私にはいまいちなんですね〜
なんとなく奥行きがなくなったというか‥‥
やはりEMI4部作の頃が、アーティストとして一番脂が乗っていた時期だったのかもしれませんね。