発表年:2014年
ez的ジャンル:進化形ジャズ系敏腕ドラマー
気分は... :これぞ今ジャズ・・・
今回はUKの敏腕ドラマーRichard Spavenの最新作『Whole Other』です。
先週のGideon Van Gelder『Lighthouse』に続き、話題の音楽ムック本"Jazz The New Chapter"の流れを汲む、進化形ジャズ・アルバムです。
Richard Spavenは、Mark De Clive-Lowe、4Hero、Jose James、Flying Lotus等の作品に参加している人気ドラマーです。
これまでRichard Spavenについては、オランダ人プロデューサー/キーボード奏者Vincent Helbersらと組んだクロスオーヴァー・ユニットSeravinceのアルバム『Hear To See』(2012年)を当ブログで紹介済みです。
また、今年当ブログで紹介した新作アルバムでいえば、Ruth Koleva『Ruth』、Jose James『While You Were Sleeping』といった話題作でSpavenが大きく貢献しています。
"Jazz The New Chapter"で示されたように、Robert Glasper以降の進化形ジャズの中核を成すのがドラムです。J Dilla以降のリズム感覚を持つChris Dave、Mark Colenburg、Jamire Williams、Kendrick Scott、Mark Guiliana、Marcus Gilmoreらが新世代ドラマーの代表格ですが、Richard Spavenもそうしたドラマーの一人です。
彼が大きく関与したSeravince『Hear To See』(2012年)やRuth Koleva『Ruth』(2014年)を聴けば分かるとおり、新世代ドラマーの中ではクラブミュージック/クロスオーヴァー寄りのアプローチも目立つアーティストですよね。その分、僕などはUSジャズ・ミュージシャンなどよりも、とっつきやすいのかもしれません。
そんなRichard Spavenの最新作『Whole Other』は、進化形ジャズの流れを汲むと同時に、トータルなサウンド・クリエイター的な才覚も持つSpavenらしいジャンル横断的な幅広い音楽性を堪能できます(Richard Spaven本人によるプロデュース)。また、2/3の楽曲がベースレスの演奏なのも新世代ドラマーらしいのでは?
レコーディングには、Richard Spaven(ds)以下、Spavenと同じくJose Jamesのバンドで活動する日本人トランぺッターTakuya Kuroda(黒田卓也)(tp)、Spavenがアルバム・プロデュースも手掛けたオランダの新感覚ジャズ・ユニットFinn Silverの女性リード・ヴォーカルFridolijn van Poll(vo)、Gilles Petersonも注目する、ロンドンを拠点に活動するRoxane DayetteとSam Paul EvansによるユニットThe Hics(vo)、The Cinematic OrchestraのギタリストStuart McCallum(g)、Zero 7等のレコーディングに参加しているRobin Mullarkey(b)、Jose James『No Beginning No End』(2013年)にも参加していたGrant Windsor(el-p)、Dego、Sunlightsquare、Bah Samba、Bugz In The Attic、Seravince等の作品でフィーチャーされているUKクラブミュージック/クロスオーヴァー好きの人であればお馴染みの女性ヴォーカリストSharlene Hector(vo)、Ben Edwards(flh)、Graeme Blevins(fl)、、Danny Fisher(g)、Dave Austin(g)、そしてL.A.ビート・ミュージックの奇才Kutmahといったミュージシャンが参加しています。
進化形ジャズとクラブミュージック/クロスオーヴァーを股に掛けるRichard Spavenが叩き出す、今のリズム、サウンドに耳を傾けましょう。
全曲紹介しときやす。
「Assemble (Intro)」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。Spavenの叩くリズム、黒田卓也のトランペット、Fridolijn van Pollのエコーのようなヴォーカルがコズミックな音空間を築します。
「Whole Other」
Richard Spaven/Stuart McCallum/Sam Paul Evans/Baker作。The Hics(Roxane Dayette/Sam Paul Evans)をフィーチャー。進化形ジャズらしいSpavenのドラミングを堪能できます。進化形ジャズとUKフューチャー・ジャズの境のようなサウンドを目指すあたりがSpavenらしいのでは?ある意味、本作のハイライトだと思います。
「Taj」
Richard Spaven/Grant Windsor/Graeme Blevins作。タイトルからしてエスニックの香りがする、進化形ジャズ・ミーツ・ワールドミュージックといった趣の演奏です。トータルなサウンド・クリエイターとしてのSpavenのセンスを感じます。
「SideIISide」
Richard Spaven/Sharlene Hector/Graeme Blevins作。Sharlene Hectorがミステリアスなヴォーカルを聴かせてくれます。日本が誇るジャズ・ミュージシャン菊地成孔氏が進化形ジャズのリズムを"第二次ドラムンベース"と称していますが、それを実感できる演奏になっています。特にUKフューチャー・ジャズ/クラブミュージックとの接点も多いSpavenの演奏だと"第二次ドラムンベース"という表現がとてもしっくりきますね。
「Tribute」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。SpavenのドラムとMcCallumのギターが織り成すダウンテンポで幻想的な音空間を堪能できます。
「The Look Out」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。微かに聴こえてくるFridolijn van Pollの女性ヴォーカルが独特の雰囲気を醸し出す美しい演奏です。作者Stuart McCallumの曲「Indigenous」をサンプリング。
「Bianca」
Egberto Gismonti作。本作唯一のカヴァーがブラジルの奇才アーティストEgberto Gismontiの作品というところにSpavenの持つ広い音楽性が窺えます。ここではDanny FisherとDave Austinによるアコースティック・ギターをメインに据え、Spavenはプロデューサーとしてトータルなサウンドに重きを置いているようです。
「Closure」
Kutmah/Richard Spaven作。L.A.ビート・ミュージックの重要人物Kutmahとのコラボ。進化形ジャズを聴くうえで、L.A.ビート・ミュージックとの接点というのも注目ポイントの1つですが、本曲はまさにそんな流れを象徴するコラボです。特にUKフューチャー・ジャズ/クラブミュージックとも近いSpavenがL.A.ビート・ミュージックとどう融合するのか?という意味で実に興味深く聴くことができました。
「Speedbird」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。ラストはフューチャー・ジャズ/ダウンテンポな雰囲気で締め括ってくれます。
ご興味がある方は、Seravince『Hear To See』やRichard Spavenの関与が大きいRuth Koleva『Ruth』もチェックを!
Seravince『Hear To See』(2012年)
Ruth Koleva『Ruth』(2014年)