発表年:2011年
ez的ジャンル:エクスペリメンタル・フォーキー系女性ジャズ・ヴォーカル
気分は... :果報は寝て待て!
今回はJazz The New Chapter強化月間の第3弾、Becca Stevens Band『Weightless』(2011年)です。
Jazz The New Chapter(JTNC)の動きの中で最も注目される女性シンガーがBecca Stevensですね。『Jazz The New Chapter 2』でも彼女の特集が大きく組まれていました。
来月にはBecca Stevens Band名義の最新作『Perfect Animal』が発売される予定ですが、その前に『Jazz The New Chapter』の中で"『Black Radio』級の重要作"と大絶賛されていた『Weightless』(2011年)を紹介したいと思います。
Becca Stevensはノースカロライナ出身。地元の芸術学校でクラシック・ギターを専攻した後、N.Y.のニュースクールでジャズ・ヴォーカルを専攻し、現在もN.Y.を拠点に活動しています。
自身のバンドBecca Stevens Band名義で、これまで、『Tea Bye Sea』(2008年)、『Weightless』(2011年)といったアルバムをリリースしています。
また、Gretchen Parlato、Rebecca Martinと3人で女性ヴォーカル・ユニットTilleryとしても活動しています。Gretchen ParlatoもJTNCの重要アーティストの1人ですし、Rebecca Martinは、かつての恋人Jesse HarrisとのユニットOnce Blueでも活動していましたね。
また、他アーティストからの注目度も高い彼女は、Travis Sullivan Bjorkestra『Enjoy!』(2008年)、Taylor Eigsti『Daylight at Midnight』(2010年)、Esperanza Spalding『Radio Music Society』 (2012年)、Ambrose Akinmusire『The Imagined Savior Is Far Easier to Paint』(2014年)、Jose James『While You Were Sleeping』 (2014年)、Gideon Van Gelder『Lighthouse』(2014年)といった作品に参加しています。
前述のように、2ndアルバムとなる本作『Weightless』(2011年)は、"『Black Radio』級の重要作"と言わしめたJTNC重要作ですが、何の予備知識もなく聴くと、ジャズというよりはフォーク/カントリー的な印象を受けると思います。また、南米フォルクローレで使われる弦楽器チャランゴを持つジャケが象徴するように南米の"静かなる音楽"やクラシックの影響も随所で聴かれます。
Becca Stevens Bandのメンバーは、Becca Stevens(vo、g、charango、ukulele)、Liam Robinson(accordion、p、harmonium、chamberlin、vo)、Chris Tordini(b、vo)、Jordan Perlson(ds、per)という4名。
前述のチャランゴをはじめ、ウクレレ、アコーディオン、ハーモニウム、チェンバリン等の楽器の音色とBeccaの透明感のあるヴォーカルの組み合わせが実にいいですね。また、Beccaと男性ヴォーカル陣との美しいハーモニーも素晴らしいですね。ある意味、このヴォーカル・ワークを楽しむアルバムとも言えます。
カヴァー4曲以外はBecca Stevensのオリジナルです。カヴァー4曲がThe Smiths、Seal、Animal Collective、Iron & Wineというのも興味深いです。このあたりのカヴァー・センスはJTNCらしいですよね。
Norah Jonesあたりと同じく、サウンドはジャズではなくとも、その根っ子にはジャズがあるといった感じですね。
Jazz The New Chapterに囚われずとも、十分楽しめる作品です。
何より、今日消費して明日には消えるような曲が氾濫するUS音楽シーンで、こんなグッド・ミュージックが存在し、それが先鋭的なミュージシャンから絶大な支持を得ているというのが嬉しいですね。
その理由は、彼女の創り出す音世界が単にトラディショナルなものではなく、トラディショナルな楽器によるエクスペリメンタル・ミュージックだからだと思います。
静かなる衝撃作を満喫しましょう。
全曲紹介しときやす。
「Weightless」
本作の持つ素晴らしい音世界が凝縮されたタイトル曲。静かにスタートした曲は、知らぬ間に力強い音に・・・。Beccaをはじめとするハーモニーがサウンドと見事に調和している感じがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=qk_qfA9YIxg
「I'll Notice」
素晴らしいハーモニーと共にスタートする味わい深いフォーキー・チューン。ウクレレをこんな感じで聴かせてくれるあたりにBeccaのセンスを感じます。
https://www.youtube.com/watch?v=ymq4VIDEeBc ※ライブ音源
「There is a Light That Never Goes Out」
The Smithsのカヴァー(Morrissey/Johnny Marr作)。Beccaのようなアーティストが年代、ジャンル的に何故The Smithsをカヴァーするのか、という点に興味が尽きません。哀愁のメロディを切なく歌い上げます。
https://www.youtube.com/watch?v=-lNeag92Jy4 ※ライブ音源
「Traveler's Blessing」
チャランゴとアコーディオンの音色をバックに、素晴らしいヴォーカル・ワークを聴かせてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=drKBFDbha_o
「The Riddle」
フォーキーな雰囲気の中にもジャズを感じるヴォーカル&サウンドがあるのがいいですね。ジワジワと盛り上がってきます。
「Kiss From A Rose」
Seal、1995年の大ヒット曲をカヴァー。このカヴァーも意外といえば意外ですね。メリハリの効いた哀愁フォーキーの「Kiss From A Rose」を聴かせてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=Jxkw9NBXD_c ※ライブ音源
「How To Love」
アルバムで一番ジャズっぽいかもしれませんね。ブルージーなサウンドをバックにBeccaが少し気怠いヴォーカルを聴かせてくれます。
「Canyon Dust」
南米フォルクローレ風の仕上がり。思わず一緒にハンドクラップしてしまいます。BeccaのウクレレとLiam Robinsonのアコーディオンの奏でる音色が抜群にいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=vsCSZEKEvt0 ※ライブ音源
「My Girls」
Animal Collectiveのカヴァー(Panda Bear作)。オリジナルは『Merriweather Post Pavilion』(2009年)に収録されています。ネオ・サイケデリックなエクスペリメンタル・ミュージックをトラディショナルな楽器で見事にカヴァーしてしまう本曲にBecca Stevensというアーティストの凄みを感じました。これぞトラディショナル楽器によるエクスペリメンタル・ミュージック!
「No More」
Becca Stevens/William Stevens作。この曲はGretchen Parlato、Rebecca MartinとのユニットTilleryのレパートリーにもなっていますね。ドリーミーに浮遊する音空間は南米の"静かなる音楽"と一緒に聴きたくなります。
「You Can Fight」
見事なア・カペラと共に始まる小粋なフォーキー・チューン。シンプルな分、歌の良さ、曲の良さが引き立ちます。
「Each Coming Night」
ラストはIron & Wine(Samuel Beam)のカヴァー。オリジナルは『Our Endless Numbered Days』(2004年)に収録されています。このセレクトは本作にフィットしていますね。オリジナルのセピアなフォーキー感を、もう少しカラフルにした雰囲気のカヴァーに仕上がっています。
来月発売予定の新作『Perfect Animal』も楽しみですね!
ご興味がある方は、Becca Stevensが客演しているアルバムもチェックを!
いずれもJTNCの重要作です。
Travis Sullivan Bjorkestra『Enjoy!』(2008年)
Taylor Eigsti『Daylight at Midnight』(2010年)
Esperanza Spalding『Radio Music Society』 (2012年)
Ambrose Akinmusire『The Imagined Savior Is Far Easier to Paint』(2014年)
Jose James『While You Were Sleeping』 (2014年)
Gideon Van Gelder『Lighthouse』(2014年)