発表年:2015年
ez的ジャンル:新世代男性ジャズ・シンガー
気分は... :ブルーノートの逆襲!
今回は新作アルバムから新世代男性ジャズ・シンガーの代表格Jose Jamesの最新作『Yesterday I Had The Blues』です。
1978年ミネアポリス生まれの男性ジャズ・シンガーJose Jamesについて、これまで当ブログで紹介した作品は以下の3枚。
『Blackmagic』(2010年)
『No Beginning No End』(2013年)
『While You Were Sleeping』(2014年)
Blue Note移籍第3弾は不世出の女性ジャズ・シンガーBillie Holiday(1915-59年)へのトリビュート・アルバムであり、彼女の代表的レパートリーをカヴァーしています。
Jose Jamesが10代から愛聴し、敬愛するシンガーBillie Holiday。彼がジャズ・シンガーを目指す過程で、Billie Holidayからの影響はかなり大きいものだったようです。その意味で、Billie Holidayへのトリビュート・アルバムを制作するということは、Jose Jamesが自身の原点に回帰することを意味するものでしょう。
名プロデューサーであり、Blue Noteの現社長であるDon Wasが自らプロデュースを務め、Jason Moran(p、el-p)、John Patitucci(b)、Eric Harland(ds)といった現代ジャズ最高峰のミュージシャン達がバックを務めます。
特に現代ジャズ最高のピアニストの一人Jason Moran(1975年生まれ)の参加が目を引きますね。ドラマーのEric Harland(1978年生まれ)もJose、Jason Moranと同世代で今後の活躍が期待されるドラマーです。そして、1959年生まれのベテランJohn Patitucciが全体を引き締めてくれます。
Blue Note移籍第1弾『No Beginning No End』(2013年)では、D'Angelo『Voodoo』あたりを意識したソウルとジャズの融合を図り、第2弾『While You Were Sleeping』(2014年)では、インディー・ロック的アプローチを見せ、進化形ジャズの姿を提示しつづけてきたJose James。
これまで進化形ジャズのトップランナーとして走り続けてきた彼が、いったん立ち止まりジャズ・ヴォーカリストとしての原点に回帰することは、次なるステップに進むために必要なプロセスなのかもしれませんね。レギュラー・バンドのメンバーではなく、このアルバムのために最高のピアノ・トリオを組んだことも含めて、彼にとってリフレッシュが必然だったのでしょう。プロデューサーを務めたDon Wasも、そのあたりを強く意識していたのではないかと思います。
全体としては実にオーソドックスなジャズ・ヴォーカル作品に仕上がっています。しかしながら、オーソドックスな作品だからこそ、逆にJose Jamesのジャズ・ヴォーカリストとしての魅力が際立ちます。また、彼の憂いを帯びたヴォーカルはBillie Holidayのレパートリーに見事フィットしています。
Billie Holidayトリビュート作品と聞いて、正直、最初は企画的な要素の強い作品という偏見もありましたが、実際に聴き重ねるうちに、Billie Holidayの魂を呼び起こすようなJose Jamesの歌力にグイグイ惹きこまれていきました。特にBillieを意識した節回しにグッときますね。
僕自身、Billie Holidayのアルバムを何枚か所有していますが、もしかしたら10年以上聴いていないかもしれません。本作を機に、Billie Holidayを聴き直そうと思っています。今まで気づかなかった新たな発見があるかも?
ジャンル枠を軽々と飛び越えるJose Jamesですが、彼は根っからのジャズ・シンガーであることを再認識させてくれる素敵な1枚です。
全曲紹介しときやす。
「Good Morning Heartache」
Irene Higginbotham/Ervin Drake/Dan Fisher作。1946年のBillieのレコーディングがオリジナルです。このブルージーなオープニングを聴いて、このアルバムは最高だ!と感じました。美しいMoranのピアノをバックに、Joseが憂いのあるヴォーカルが、すーっと心の奥に沁みわたっていきます。特にJoseのオンタイムではない節回しが、演奏全体を味わい深いものにしてくれています。
「Body and Soul」
Robert Sour/Edward Heyman/Frank Eyton作詞、John Green作曲。お馴染みのスタンダードですね。当ブログではCarly Simonのカヴァーを紹介済みです。ここでも、Joseのじらしにじらす節回しが、Billieの魂を呼び起こしているようでいいですね。お馴染みのスタンダードの魅力を再発見できた気がします。また、Moranのピアノを堪能するという点でも聴き逃せません。今ジャズのエッセンスをさり気なく挟むEric Harlandのドラムにも思わずニンマリしてしまいます。
「Fine and Mellow」
Billie Holiday作。ジャズ・スタンダードとしてお馴染みの本曲は1939年に初レコーディングされています。ここではバックの3人が最高のブルースを演奏してくれます。シンプルな編成だからこそ、一音一音を噛みしめられるのがいいですね。そんな最高のバックを得て、Joseもブルージーなヴォーカルを思い入れたっぷりに聴かせてくれます。
「I Thought About You」
Johnny Mercer/Jimmy Van Heusen作。当ブログではMiles Davis、Irene Sjogren Quintetのカヴァーも紹介済みです。バックはMoranのピアノのみであり、細かな息づかいまで伝わってくるJoseのヴォーカルを存分に楽しめます。憂いを帯びたJoseのヴォーカルにグッときます。
「What a Little Moonlight Can Do」
Harry M. Woods作。頭からMoranのピアノが疾走する、アルバム中最もスピーディーかつエキサイティングな演奏を楽しめます。このピアノ・トリオの演奏を満喫したいならば、本曲の演奏がハイライトかもしれません。そんな演奏をバックに、Joseも軽快なヴォーカルを聴かせてくれます。軽快ながらもオンタイムではない節回しが実に格好良いですな。
「Tenderly」
Walter Gross/Jack Lawrence作のスタンダード。当ブログではClara Morenoのカヴァーも紹介済みです。そういえば、Clara Morenoの母Joyceもカヴァーしていましたね。リリカルな演奏をバックに、Joseのヴォーカルが優しく聴く者を包み込んでくれます。
「Lover Man」
Jimmy Davis/Roger Ramirez/James Sherman作のスタンダード。当ブログではPatti LaBelleのカヴァーも紹介済みです。Joseの美学のようなものを実感できる1曲ですね。揺れ動く感情の起伏を濃淡をつけたヴォーカル、演奏で見事に表現しています。
「God Bless the Child」
Billie Holiday/Arthur Herzog, Jr.作。Billieは1941年に本曲の最初のレコーディングを行っています。Jose自身が幼少期にお気に入りであったという本曲が僕の一番のお気に入り。ブルージーで、ソウルフルで、ジャジーなJoseのヴォーカルが最高にセクシーだと思います。ここでのMoranはエレピを弾いており、他の演奏とは異なる雰囲気を堪能できます。
「Strange Fruit」
邦題「奇妙な果実」。Billieの代表的なレパートリーとしてお馴染みですね。1939年、Lewis Allanによって書かれた当時のアメリカ南部の人種差別による黒人リンチの光景を描いた歌です。当ブログではCassandra Wilsonのカヴァーを紹介済みです。この曲には地を這うようなダーク・ヴォーカルが似合うと思いますが、ここでのJoseのヴォーカルはまさにそんな感じです。
Jose Jamesの他作品もチェックを!
『The Dreamer』(2007年)
『Blackmagic』(2010年)
Jose James & Jef Neve『For All We Know』(2010年)
『No Beginning No End』(2013年)
『While You Were Sleeping』(2014年)