2016年05月05日

Terrace Martin『Velvet Portraits』

Hip-Hop/R&Bファンも注目のジャズ・アルバム☆Terrace Martin『Velvet Portraits』
Velvet Portraits [日本語解説・帯付]
発表年:2016年
ez的ジャンル:Hip-Hop/R&B×L.A.ジャズ
気分は... :L.A.ジャズ隆盛!

今回は新作ジャズからHip-Hop/R&Bファンからも注目される1枚Terrace Martin『Velvet Portraits』です。

Terrace MartinはL.A.サウスセントラル生まれのプロデューサー/サックス奏者。父はジャズ・ドラマーのCurly Martin

高校時代にLAビート・ミュージックの雄Flying Lotusの右腕として活躍する天才ベーシストThundercat、大作『The Epic』で昨年のジャズ・シーンを盛り上げたサックス奏者Kamasi Washingtonと出会い、後に彼らとSnoop Doggのツアーに参加しています。

また、ビートメイカーとしても活動していたTerraceはSnoopとの出会いでチャンスを掴み、Snoop DoggKendrick Lamar等数多くのHip-Hopアーティストのプロデュースを手掛けるようになりました。

ジャズ・ミュージシャンとHip-Hopビートメイカーという2つの側面を持つTerrace Martinの知名度を一気に広めたのが、2015年最大の衝撃作Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』のプロデュースです。

同作がHip-Hopファンに大きなインパクトを与えたのは勿論のこと、L.A.ジャズと西海岸Hip-Hopの融合という点で"今ジャズ"ファンのTerrace Martinに対する関心を高めました。昨年発売された『Jazz The New Chapter 3』でもRobert GlasperKamasi Washingtonと並びTerrace Martinのインタビュー記事が大きく取り上げられています。

そんな注目のミュージシャン/プロデューサーの最新作が『Velvet Portraits』です。

これまで彼自身のアルバムとしては、Mursとの共演アルバム『Melrose』(2011年)、Musiq SoulchildKendrick LamarRobert Glasper、Wiz Khalifa、Snoop Dogg、Lalah Hathaway等の豪華メンバーがゲスト参加した『3ChordFold』(2013年)という2枚をリリースしています。

最新作『Velvet Portraits』は、Terraceの広いミュージシャン人脈が窺える豪華メンバーが集結しています。

Terraceが高校時代から親交を持ち、互いの作品に参加し合う関係にあるRobert Glasper(p、el-p)、天才ベーシストThundercat(b)、Thundercatの兄Ronald Bruner Jr.(ds)、Kamasi Washington(sax)といったBrainfeeder勢、人気ジャズ・ファンク・グループSnarky PuppyのメンバーRobert "Sput" Searight(key、per)、話題のR&B作品や最近ではDr. Lonnie Smithの最新作『Evolution』やRobert Glasperがサントラを手掛けた帝王Miles Davisの伝記映画『Miles Ahead』に参加しているトランペット奏者Keyon Harold(tp)、Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』にも参加していたベーシストBrandon Owens(b)およびサックス奏者Adam Turchinといった"今ジャズ"注目ミュージシャンがズラリと名を連ねます。

また、Earth, Wind & Fireの大ヒット曲「Let's Groove」をMaurice Whiteと共作したキーボード奏者Wayne Vaughnや、Wayneの妻Wandaが在籍する女性ソウル・グループThe EmotionsといったEW&F関連のミュージシャンや、Donny Hathawayの娘Lalah Hathawayの参加はソウル/ファンク好きの興味を引きます。

さらには前述のWayne Vaughnの娘でKendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』Dr. Dre『Compton』といった話題作にも参加している女性シンガーWyann Vaughn、前作『3ChordFold』にも参加し、フィーチャリング・ヴォーカリストとしても人気の女性シンガーTone Trezure、Snoop Dogg、Terrace Martin、Kendrick Lamarとも親交のあるギタリストMarlon Williams 、LAのミュージシャン集団1500 or Nothin'のメンバーの一人であるUncle Chucc、大物ベーシストAndrew Goucheの娘であり、プロデューサー/ソングライターとして活躍するTiffany GoucheといったHip-Hop/R&Bの注目アーティストも参加します。

忘れていましたが、Terraceの父親Curly Martin(ds)も参加しています。

こうした参加ミュージシャンからイメージされるように、ジャズとHip-Hop/R&Bが見事に調和したアルバムに仕上がっています。

一番のフィットするのは"今ジャズ"ファンでしょうが、L.A.のHip-Hop/R&Bに興味がある人が聴いてもかなり楽しめます。

Robert Glasper Experiment『Black Radio』(2012年)ほどのインパクトはありませんが、ジャズ・サイドからのHip-Hop/R&Bへのアプローチという点では『Black Radio』級の重要作と言えるのでは?

昨年リリースされたKamasi Washington『The Epic』、そして本作、さらに発売されたばかりのCarlos Nino & Friends『Flutes, Echoes, It's All Happening!』(こちらも近々エントリーします)の3枚に、今のL.A.ジャズの魅力が凝縮されていると思います。

全曲紹介しときやす。

「Velvet Portraits」
幻想的なサウンドによるアルバムのプロローグ。
https://www.youtube.com/watch?v=J9PPRpAUqJ8

「Valdez off Crenshaw (Valdez in the Country)」
Terrace MartinとRobert "Sput" Searightの共同プロデュース。名盤『Extension Of A Man』に収録されていたDonny Hathawayの名曲「Valdez in the Country」のリメイク。サックス奏者としてのTerraceのプレイを楽しめます。ゆったりとしたファンキー・メロウな雰囲気がいいですね。ミニ・ムーグの音色も僕好み。Marlon Williamsのギター・ソロもキマっています。
https://www.youtube.com/watch?v=3rZJVwKgv_4

「Push」
Tone Trezureをフィーチャー。Curtis Mayfield『Superfly』あたりに収録されていそうなファンキー・グルーヴ。Tone Trezureのソウルフル・ヴォーカル、Robert "Sput" Searightのファンキー・オルガン、父Curly Martinのドラミングが目立っています。
https://www.youtube.com/watch?v=rCLFHmwTmpo

「With You」
Terrace自身のヴォコーダーが印象的なメロウ・チューン。Zapp「Computer Love」あたりが好きな人は気に入るはず!Casey BenjaminのヴォコーダーをフィーチャーしたRobert Glasper Experiment名義の作品ともイメージが重なります。
https://www.youtube.com/watch?v=mOhBN-cnqsA

「Curly Martin」
Robert GlasperThundercat、Ronald Bruner Jr.をフィーチャー。タイトルの通り、父Curly Martinに捧げられた演奏です(父Curlyは不参加ですが)。JTNC好きは歓喜するスリリングな"今ジャズ"演奏を存分に堪能できます。
https://www.youtube.com/watch?v=hO10m-t0jNI

「Never Enough」
Tiffany Goucheをフィーチャー。Tiffanyの従兄弟であり、当ブログでも度々登場する注目の男性R&BアーティストSiRあたりに通じるアトモスフィックなR&Bチューンに仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=s4m_Z2MgnHU

「Turkey Taco」
DJ PoohとTerraceの共同プロデュース。Wyann Vaughn & Wayne Vaughnという父娘をフィーチャーしています。さらにWyannの母であるWanda Vaughn(The Emotions)もバック・コーラスで参加。ダークなサウンドとWyann & Wanda母娘の妖しげなヴォーカルが織り成す音世界はクセになります。
https://www.youtube.com/watch?v=V4pbpJOzIag

本作の日本語解説では、この曲をThe Emotions参加曲と誤解してか、"EW&Fへのオマージュ"と評しています。感じ方は人それぞれですが、このダークなサウンドはどう聴いてもEW&Fじゃないでしょ(笑)。『To Pimp A Butterfly』に参加しているのもWayneじゃなくWyannですよ!評論家のYさん、売れっ子かもしれませんが、仕事が雑なのでは?

「Patiently Waiting」
Uncle ChuccとThe Emotionsをフィーチャー。ヴィンテージ感のあるゴスペル・バラード。Uncle ChuccがメインでThe Emotionsはバック・コーラス隊に徹しています。
https://www.youtube.com/watch?v=CiXyZvQja_U

「Tribe Called West」
Keyon Harroldのトランペットをフィーチャー。タイトルの通り、A Tribe Called Quest(ATCQ)へのオマージュ。ATCQ調の浮遊するジャジー・サウンドをバックにKeyon Harroldがトランペットが音空間を揺らめきます。
https://www.youtube.com/watch?v=SqQwuZBKbd8

「Oakland」
Lalah Hathawayをフィーチャー。彼女の寂しげなヴォーカルが心に沁みる哀愁メロウなジャジー・ソウルに仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=wE1HJZ9j6n4

「Bromali」
Marlon Williamsのギターをフィーチャーしたインスト・チューン。淡々とした演奏なので、他の曲に比べて印象が薄いかも?
https://www.youtube.com/watch?v=xBHuxg3iJMI

「Think of You」
Kamasi Washingtonと女性シンガーRose Goldをフィーチャー。キュートなRose Goldのヴォーカルが印象的なメロウ・ジャズに仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=WLiRqplwG_U

「Reverse」
Robert GlasperとCandy Westをフィーチャー。テープ逆回転のようなサウンドが印象的です。タイトルはそれを意図したものなのでは?
https://www.youtube.com/watch?v=nyOi4NVyqQw

「Mortal Man」
Kamasi Washingtonがアレンジしたストリングスでドラマチックにスタートしますが、本編は浮遊感のあるコズミック&スピリチャルなサウンドが展開されます。
https://www.youtube.com/watch?v=-it0IZ8a0hg

Terrace Martinの他作品もチェックを!

Murs & Terrace Martin『Melrose』(2011年)
Melrose

『3ChordFold』(2013年)
3chordfold
posted by ez at 04:21| Comment(2) | TrackBack(0) | 2010年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いやぁ,これは本当に凄いアルバムですね。
ジャズもR&BもHip-Hopも全部飲み込んでしまったかのような多様性,混沌としているようで共存している独特の雰囲気…最初聴いた時は少し難解で「?」というところもありましたが,2回,3回と聴くうちに奥の深さがわかるようになってきました。
個人的にはメロディーで判断してしまうところがあるので,「With You」や「Oakland」
に魅かれてしまうのですが,この2曲に限らずどの曲も素晴らしくて,本当に傑作ですね。
Posted by KJ at 2016年06月26日 00:20
☆KJさん

ありがとうございます。

派手さはありませんが、"今ジャズ"とHip-Hop/R&Bが見事に調和した素晴らしい1枚だと思います。

本作を聴けば、彼がKendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』のプロデューサーに起用された理由がよくわかりますね。

Robert Glasperのようにジャンルの枠を超えながら、ジャズを新境地を切り開くジャズ・ミュージシャンでいて欲しいですね。

Posted by ez at 2016年06月27日 02:41
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