発表年:2019年
ez的ジャンル:LAビート系ブラック・ミュージック/エクスペリメンタル
気分は... :炎の精霊が語るものは...
今回はLAビート・シーンを牽引するFlying Lotusの最新作『Flamagra』です。
音楽ファンは目を離せない注目レーベルBrainfeederの総帥でもあるFlying Lotus(本名:Steven Ellison)に関して、これまで当ブログで紹介した作品は以下の3枚。
『Cosmogramma』(2010年)
『Until The Quiet Comes』(2012年)
『You're Dead!』(2014年)
死後の世界をコンセプトとした前作『You're Dead!』(2014年)は、進化形ジャズをも飲み込んだスケールの大きな意欲作として注目を浴びました。確かに、『You're Dead!』でアーティストとしてネクスト・レベルの高みに達した感のある衝撃作でした。
そして、『You're Dead!』から待つこと5年、遂に待望の新作がドロップされました。
『You're Dead!』も全20曲という大作でしたが、本作『Flamagra』はそれを上回る全27曲(本編のみ)というボリュームです。ただし、そのうち12曲が2分に満たない小曲というのがFlying LotusあるいはLAビート・ミュージックらしいのですが。
本作は"ある丘の上に鎮座している永遠の炎"がコンセプトとなっています。
また、Flying Lotusの初監督映画『KUSO』(2017年)で用いた音源も多く収録されているらしいです。
アルバムにはAnderson .Paak、George Clinton、Little Dragon、Tierra Whack、Denzel Curry、David Lynch、Shabazz Palaces(Ish/Tendai "Baba" Maraire)、Thundercat、Toro Y Moi、Solangeといったアーティストがフィーチャリングされています。
また、フライローの右腕Thundercat(b)、L.A.シーンに欠かせない重鎮Miguel Atwood-Ferguson(strings)、Thundercatの兄Ronald Bruner Jr.(ds)、注目のキーボード奏者Brandon Coleman(key)をはじめ、Herbie Hancock、Syunsuke Ono、Robert Glasper、Taylor Graves(key)、Dennis Hamm(key) 、Deantoni Parks(ds) 、Ashley Norelle(back vo)、Niki Randa(back vo)等がレコーディングに参加しています。
最近のBrainfeeder作品の傾向を反映したかのように、本作『Flamagra』も歌ものを中心にポップで聴きやすい楽曲が増えています。
Anderson .Paakをフィーチャーした「More」、Little Dragonをフィーチャーした「Spontaneous」、日本人アーティストSyunsuke Onoとのコラボ「Takashi」、80年代テクノ・ポップNick Scarim「Spy vs. Spy - Main Theme」のリメイク「All Spies」、、WOKEの同僚Shabazz Palacesをフィーチャーした「Actually Virtual」、Thundercatをフィーチャーした「The Climb」、Toro Y Moiをフィーチャーした「9 Carrots」といった曲にこうした傾向が反映されています。
また、映画監督David Lynchのナレーションをフィーチャーした「Fire Is Coming」、George Clintonをフィーチャーした「Burning Down The House」、人気女性R&BシンガーSolangeをフィーチャーした「Land Of Honey」あたりに本作らしい"永遠の炎"というコンセプトを感じることができます。
その一方でエクスペリメンタルな小曲があちこちに散りばめられており、その雑多感が逆に面白いのかも?
前作は"ジャズ・ネクスト・レベルの超問題作"という進化形ジャズ的な形容詞がフィットしましたが、本作は"進化形ジャズ"という枠組みからもはみ出しており、もはやジャンル的説明は困難ですね。このあたりは最近のBrainfeeder作品全編に言えることかもしれませんが・・・
本作のアートワークで使用されたタイポグラフィは、気鋭の日本人グラフィック・デザイナーGUCCIMAZE氏が手掛けています。
全27曲は良くも悪くも手ごわいですが、ポップな曲も多いので案外スンナリ聴けるかもしれません。
とりあえずLittle Dragonをフィーチャーした「Spontaneous」を聴けば、かなり印象が変わるはず!
全曲紹介しときやす。
「Heroes」
本作のテーマである丘の上に鎮座している永遠の炎を想起させるオープニング。Miguel Atwood-Fergusonがストリングスを手掛け、Thundercatらしいプレイも聴こえてきます。ドラゴンボール・ネタがサンプリングされているあたりがアニメ/ゲーム好きのFlying Lotusらしいのでは?
https://www.youtube.com/watch?v=aDDvwoABgwE
「Post Requisite」
Flying Lotus/Thundercatのタッグによるコズミックなエレクトロニカ。本作らしい彩り鮮やかな音色を楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=QbytIjGOqqk
「Heroes In A Half Shell」
L.A.ビートらしいミニマル感とジャズ・フィーリングを融合させた小曲。
https://www.youtube.com/watch?v=hzLjObMptFo
「More」
Anderson .Paakをフィーチャー。ソウルフルな序章に続き、OutKast「Da Art of Storytellin' (Part 1)」の引用と共に始まるPaak節ラップ全開の本編に突入します。Anderson .Paak Meets Brainfeederって感じがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=ylqBPksn36A
「Capillaries」
浮遊するHip-Hopビートが美しもの物悲しげなピアノが印象的なインスト。
https://www.youtube.com/watch?v=uuUe2PWtV1Y
「Burning Down The House」
George Clintonをフィーチャー。George Clintonの得体の知れないキャラクターと炎の精霊という本作らしいモチーフをうまく重ね合わせた不穏なファンク・チューン。
https://www.youtube.com/watch?v=h4Z-mTcAsPU
「Spontaneous」
日系スウェーデン人の女性シンガーYukimi Nagano率いるスウェーデンの4人組バンド
Little Dragonをフィーチャー。これがフライロー?と疑いたくなるメロディアスでキャッチーなポップ・チューン。Yukimiのキュートなヴォーカルが映える1曲はモロに僕好み。こういう曲でも2分強であっけなく終わってしまうところはフライローらしいのかもしれませんが(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=Yi67hQf2AjA
「Takashi」
日本人アーティストSyunsuke Onoとのコラボ。Spotifyで流れていた彼の曲をフライローが気に入りコラボが実現したようです。また、日本人名の曲タイトルはチームラボの工藤 岳 氏に因んだものらしいです。フライローらしいミニマルな音世界にポップな要素が加わった感じのインストです。
https://www.youtube.com/watch?v=YrygJAr13Dk
「Pilgrim Side Eye」
『You're Dead!』にも参加していたHerbie Hancockとのコラボ。1分半のエクスペリメンタルなインストです。
https://www.youtube.com/watch?v=rynqb6m8FnM
「All Spies」
Nick Scarim「Spy vs. Spy - Main Theme」のリメイク。 80年代テクノ・ポップのチープ感覚を2019年流のセンスで聴かせてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=cDlBO3ja3rw
「Yellow Belly」
女性ラッパーTierra Whackをフィーチャー。ゲーム・ミュージック的トラックと妖しげなTierra Whackラップによるエクスペリメンタルな仕上がり。
https://www.youtube.com/watch?v=Z8rSTXeyMns
「Black Balloons Reprise」
Denzel Curryをフィーチャー。Alain Goraguer「Ten Et Tiwa」、Melvin Bliss「Synthetic Substitution」をサンプリングした哀愁トラックによるHip-Hopチューンです。Miguel Atwood-Fergusonによるストリングスも印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=hc7K4q3P2wg
「Fire Is Coming」
『イレイザーヘッド』、『エレファント・マン』、『ツイン・ピークス』、『ロスト・ハイウェイ』等でお馴染みの映画監督David Lynchのナレーションをフィーチャー。あるフェスティバルでLynchのスポークン・ワード的スピーチを聞いたことが、"炎"という本作のコンセプトを後押ししたようです。音を聴いているだけで、Lynchの不気味な映像が思い浮かんできます。
https://www.youtube.com/watch?v=hcKBell84GQ
「Inside Your Home」
1分半ながらもフライロー×ThundercatコンビらしいL.A.ビートを楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=_sCLw79q0wc
「Actually Virtual」
IshとTendai "Baba" MaraireによるHip-HopユニットShabazz Palacesをフィーチャー。Ishは元Digable PlanetsのButterflyと同一人物です。2人とFlying Lotus、ThundercatはHip-HopプロジェクトWOKEの同僚です。そんなWOKE的トラックはトライバル・ビートと炎の精霊ラップによる呪術的な1曲に仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=iwDJa2F2Tlc
「Andromeda」
1分半の小曲ですがコズミックなエレクトロニカ感が魅力です。
https://www.youtube.com/watch?v=49ajVcXyG4A
「Remind U」
前曲からの流れがいい感じです。「Andromeda」と合わせて1曲位の感覚で聴くと丁度良いコズミックなインスト。
https://www.youtube.com/watch?v=CTNJ18bU4Dc
「Say Something」
ピアノとストリングスのみよるクラシカルな雰囲気の小曲。
https://www.youtube.com/watch?v=UJnEh2Xx4yA
「Debbie Is Depressed」
Miguel Atwood-Fergusonのストリングスが映える美しくも切ない1曲に仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=j1pwFuOnyXc
「Find Your Own Way Home」
美しも儚いコーラスワークが印象的な小曲。
https://www.youtube.com/watch?v=M6yta67jRPQ
「The Climb」
Thundercatをフィーチャー。Thundercat『Drunk』の雰囲気をそのまま持ち込んだかのようなメロウ・ソウルに仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=8hcv3q7vNTY
「Pygmy」
呪術的トライバル感が印象的な小曲。
https://www.youtube.com/watch?v=uyd-ymw6_MU
「9 Carrots」
幅広い音楽性を持つチル・ウェイヴ系アーティストToro Y Moiをフィーチャー。彼のファルセット・ヴォーカルが優しく響くメロウ・ポップ。本作らしいクラヴィネットの響きも印象的です。。
https://www.youtube.com/watch?v=r_VEXk2oJ7E
「FF4」
美しくも儚いアブストラクトHip-Hopといった雰囲気の小曲。
https://www.youtube.com/watch?v=mDJf4vKgevE
「Land Of Honey」
人気女性R&BシンガーSolangeをフィーチャー。Robert Glasperもソングライティングに名を連ねています(ここで聴かれるピアノも彼かも?)。Solangeの祈りのようなヴォーカルが映える美しく深淵な仕上がり。Miguel Atwood-Fergusonのストリングスによるドラマティックな演出もグッド!
https://www.youtube.com/watch?v=UZ_v07WeVmE
「Thank U Malcolm」
本作らしいコズミックなインストですが、ThundercatとRonald Bruner Jr.というBruner兄弟の活躍が目立ちます。
https://www.youtube.com/watch?v=lYPgHsI1mkw
「Hot Oct.」
炎の精霊のメッセージと共にアルバムは幕を閉じます。
https://www.youtube.com/watch?v=mRo8gxvhJCg
「Quarantine」
国内盤ボーナス・トラック。トライバル&エスニック&エクスペリメンタルなインストです。
他のFlying Lotusのアルバムもチェックを!
『1983』(2006年)
『Los Angeles』(2008年)
『Until The Quiet Comes』(2012年)
『You're Dead!』(2014年)
また、彼の主宰するBrainfeeder10周年記念コンピ『Brainfeeder X 』(2018年)あたりをチェックするのも楽しいのでは?
『Brainfeeder X 』(2018年)