2019年11月12日

Miles Davis『Rubberband』

34年を経てベールを脱ぐ秘蔵アルバム☆Miles Davis『Rubberband』
ラバーバンド
発表年:2019年
ez的ジャンル:80年代マイルス秘蔵セッション
気分は... :時空を超えたMiles!

遂に出た!ジャズ界の帝王Miles Davis、話題の秘蔵アルバム『Rubberband』です。
※オリジナル・セッションの時期を踏まえて便宜上80年代カテゴリーにしています。

ジャズ界の帝王Miles Davisに関して、これまで当ブログで紹介した作品は以下の19枚。

 『Bag's Groove』(1954年)
 『'Round About Midnight』(1955、56年)
 『Cookin'』(1956年)
 『Miles Ahead』(1957年)
 『Milestones』(1958年)
 『Someday My Prince Will Come』(1961年)
 『E.S.P.』(1965年)
 『Miles Smiles』(1966年)
 『Nefertiti』(1967年)
 『Filles De Kilimanjaro』(1968年)
 『In A Silent Way』(1969年)
 『Live Evil』(1970年)
 『On The Corner』(1972年)
 『Get Up With It』(1970、72、73、74年)
 『In Concert』(1973年)
 『Dark Magus』(1974年)
 『Agharta』(1975年)
 『The Man With The Horn』(1981年)
 『Tutu』(1986年)

本作『Rubberband』のレコーディングを開始した1985年10月は、Milesが長年在籍していたColumbiaを離れ、Warner Bros.への移籍を決断した時期であり、本来はその移籍第1弾アルバムとなるはずでした。

プロデュースはRandy HallAttala Zane Giles

Randy HallはMilesの甥のVince Wilburn, Jr.と幼馴染みのシンガー/ギタリスト/プロデューサーであり、Milesのカムバック・アルバム『The Man With The Horn』(1981年)にも参加していました。

Miles自らがRandy Hallにプロデュースを依頼し、その当時Hallと一緒に仕事をしていたAttala Zane Gilesもプロデューサーとして加わることになった模様です。

こうして1985年10月から1986年1月にかけて、『Rubberband』のセッションが行われました。

レコーディングのコア・メンバーはMiles Davis(tp、key、syn)以下、Randy Hall(g、prog)、Attala Zane Giles(g、b、drum prog、key)、Vince Wilburn, Jr.(ds)、Adam Holzman(key)、(key)、Neil Larsen(key)、Michael Paulo(sax)、Glenn Burris(sax)、 Steve Reid(per)。

しかしながら、その全体像が明らかになりつつあった段階で、Warnerのジャズ部門を仕切っていた大物プロデューサーTommy LiPumaが内容に難色を示し、本セッションはお蔵入りとなってしまいました。そして、新たに移籍第1弾作品としてレコーディングされたのがMarcus Millerと組んだ『Tutu』(1986年)です。

その後陽の目を見ることがなかった『Rubberband』セッションでしたが、4年前にMiles Davis Estateへリリースの打診があった模様です。Miles Davis Estateメンバーでもあった甥のVince Wilburn, Jr.が、オリジナルのままでのリリースは不適切であると考え、当時のプロデューサーRandy HallAttala Zane Gilesに声を掛け、今の時代に相応しい作品としてアップデートさせたものが本作『Rubberband』です。

新たにLedisiLalah HathawayMedina Johnsonといったシンガーがフィーチャリングされています。

それ以外にMike Stern(g)、Arthur Haynes(b)、King Errisson(congas)、Anthony "Mac Nass" Loffman(key、prog)、Javier Linares(p、key)、Munyungo Jackson(timbales、per)、Isaiah Sharkey(g)、Felton Crews(b)、Angus Thomas(b)、Robert Irving III(key、syn)、Marilyn Mazur(per)、Steve Thornton(per)、Bob Berg(sax)、Keith Nelson(b)、Rick Braun(tp、tb)といった新旧ミュージシャンがレコーディングに参加しています。

当時のMilesの意図を汲んだ演奏と、リワークでオリジナルとは異なる表情を見せる演奏が入り混じっている感じが逆に面白いと思いました。

Scritti Politti調ファンク・グルーヴの「This Is It」「Rubberband」Prince調のミネアポリス・ファンク「Give It Up」、ファンキーなG0-GOビートの「Echoes In Time/The Wrinkle」あたりには当時のMilesの嗜好が反映されていると思います。

一方、Ledisiをフィーチャーした「Rubberband Of Life」、Medina Johnsonの女性ヴォーカルをフィーチャーした「Paradise」Lalah Hathawayをフィーチャーした「So Emotional」はリワークで生前のMilesも想像しなかったような演奏に仕上がっているのでは?

賛否両論があり、評価が分かれるであろう1枚だと思いますが、僕はかなり楽しめました。

熱狂的なMilesファンより、むしろMiles Davisをあまり聴いたことがない人の方がとっつきやすい1枚かもしれません。

全曲紹介しときやす。

「Rubberband Of Life」
実力派女性R&BシンガーLedisiをフィーチャー。アルバムに先駆けて2018年EPリリースされた楽曲であり、オリジナル・トラック「Rubberband」のリワークです。Lou Donaldson「Ode To Billie Joe」をサンプリングし、ATCQ的なジャズHip-Hop的な雰囲気を狙った曲。このあたりは生前Hip-HopへアプローチしていたMilesのスタンスとも符合するのでは?
https://www.youtube.com/watch?v=mFgW1dzzH9U

「This Is It」
この曲は当時Milesが刺激を受けていたScritti Polittiのサウンドを意識した仕上がりになっています。Milesは『Tutu』『Cupid & Psyche 85』(1985年)収録の彼らのヒット曲「Perfect Way」をカヴァーし、さらに彼らのアルバム『Provision』(1988年)のレコーディングにも参加しています。Milesの願望を叶えたScritti Politti調ファンク・グルーヴを満喫できます。ここではRandy Hallのギター・ソロも目立っています。
https://www.youtube.com/watch?v=gVJRXGphX1w

「Paradise」
Medina Johnsonの女性ヴォーカルをフィーチャー。レゲトンやスパニッシュのエッセンスを加えたラテン・フレイヴァーのパーカッシヴな仕上がり。Miles Davis & Michel Legrand「Concert On The Runway」ネタも使っています。およそMiles Davisらしからぬ雰囲気ですが、意外性があって楽しいです。
https://www.youtube.com/watch?v=8THEWi8BOV8

「So Emotional」
Donny Hathawayの娘Lalah Hathawayをフィーチャー。当時の演奏に満足していなかったHallとGilesが大幅に手直しを加えた模様です。雰囲気としては、Lalah Hathawayが歌うオトナのR&BバラードにMilesが客演しているといった感じです。Milesのセピア感溢れるミュート・トランペットがいい感じです。
https://www.youtube.com/watch?v=_VEfWGBN3-U

「Give It Up」
Princeをはじめとするミネアポリス・ファンクを意識したダンサブル&ファンキーな演奏です。もし、殿下と帝王が共演していたらこんな感じだったんだろうなぁ・・・と妄想が膨らむ1曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=t-bQYsP8VbI

「Maze」
このセッションのみ『Rubberband』セッション以前の1985年9月のレコーディングのようです。エレクリック・マイルス的な雰囲気も持ったある意味Milesらしい音世界なのでは?ギター・ソロはMike Stern。
https://www.youtube.com/watch?v=KkE7Dci6vBk

「Carnival Time」
Neil Larsenの作品であり、Milesはライヴでも頻繁に演奏していたようです。Neil Larsenらしいラテン・テイストのフュージョン・チューンに仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=A6192saaYTU

「I Love What We Make Together」
Randy Hallをフィーチャー。元々Al Jarreauのために書かれた曲であり、本人もこのプロジェクトへの参加を望んでいたようですが、実現することなくAl Jarreauが2017年に逝去してしまいました。演奏自体は都会的ミディアム・グルーヴに仕上がっています。Randy Hallのヴォーカルも素晴らしいですが、確かにこの曲はAl Jarreauが歌っていたら相当ハマっていた気がします。
https://www.youtube.com/watch?v=cqcuxRX5sTE

「See I See」
引き算の美学的なMilesのプレイを楽しめるファンク・グルーヴ。
https://www.youtube.com/watch?v=8xG-nq2yhEM

「Echoes In Time/The Wrinkle」
静寂のバラード「Echoes In Time」から一転し、ファンキーなG0-GOビートの「The Wrinkle」へ展開していきます。新しい音に貪欲でったMilesのスタンスがよくわかる演奏です。
https://www.youtube.com/watch?v=qRjrx8fWfnM

「Rubberband」
ラストは「Rubberband」のオリジナル・ミックス。Scritti Polittiにインスパイアされたファンク・グルーヴといった感じですね。Mike Sternが素晴らしいロッキン・ギター・ソロで盛り上げてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=5WfYZM0NhgA

Miles Davisの過去記事もご参照下さい。

『Bag's Groove』(1954年)
バグズ・グルーヴ

『'Round About Midnight』(1955、56年)
'Round About Midnight

『Cookin'』(1956年)
クッキン

『Miles Ahead』(1957年)
Miles Ahead

『Milestones』(1958年)
マイルストーンズ+3

『Someday My Prince Will Come』(1961年)
Someday My Prince Will Come

『E.S.P.』(1965年)
E.S.P.

『Miles Smiles』(1966年)
マイルス・スマイルズ

『Nefertiti』(1967年)
ネフェルティティ + 4

『Filles De Kilimanjaro』(1968年)
キリマンジャロの娘

『In A Silent Way』(1969年)
In a Silent Way (Dlx)

『Live Evil』(1970年)
ライヴ・イヴル

『On The Corner』(1972年)
Blu-spec CD オン・ザ・コーナー

『In Concert』(1973年)
イン・コンサート

『Get Up With It』(1970、72、73、74年)
ゲット・アップ・ウィズ・イット

『Dark Magus』(1974年)
ダーク・メイガス

『Agharta』(1975年)
Agharta

『The Man With The Horn』(1981年)
The Man with the Horn

『Tutu』(1986年)
TUTU<SHM-CD>
posted by ez at 03:59| Comment(0) | 1980年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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