発表年:1989年
ez的ジャンル:カリスマ系ロック詩人
気分は... :大統領選の行方は...
いよいよアメリカ大統領選挙ですね。
ここ数日、大統領選挙のニュースを見聞きしているうちに聴きたくなった1枚がLou Reed『New York』(1989年)です。
ロック界のカリスマLou Reed(1942-2013年)の紹介は、『Transformer』(1972年)、『The Blue Mask』(1982年)に続き3回目となります。
最近、前回のエントリーから10年以上間隔が空いたアーティストを取り上げることが多いですが、Lou Reedもそんな一人です。
『New York』(1989年)はUSでゴルード・ディスクに輝いたヒット・アルバムであり、内容的にもシンプルなLou Reedならではのロックンロールが展開され、キャリア有数の1枚という高い評価を得ている代表作です。
プロデュースはLou Reed自身とFred Maher。
楽曲はすべてLou Reedのオリジナル(共作1曲含む)。
Fred Maherは80年代前半のLou Reed作品に参加した後、一時期Green Gartside率いるUKの人気ユニットScritti Polittiのメンバーとなり、本作で出戻ってきました。また、この後Matthew Sweet『Girlfriend』(1991年)のプロデュースなどでも名を上げました。
レコーディングの基本メンバーは、Lou Reed(vo、g)、Mike Rathke(g)、Rob Wasserman(b)、Fred Maher(ds、b)という4名。新ギタリストとしてMike Rathkeを迎え、ギター2本、ベース、ドラムという4人編成による演奏が基本となっています。
さらに元The Velvet UndergroundのMoe Tucker(per)、往年の人気シンガーDion DiMucci、、Jeffrey Lesser(back vo)も参加しています。
オープニングを飾る「Romeo Had Juliette」、代表曲として人気の高い「Dirty Blvd.」、LouとMikeのギターが織りなす「Beginning of a Great Adventure」、アーシーでドライブ感のある「Busload of Faith」、軽快なロックンロール「Good Evening Mr. Waldheim」あたりが僕のお気に入り。
ドナルド・トランプの名も登場する「Sick of You」、Andy Warholの死を歌った「Dime Store Mystery」あたりは今聴いても興味深いですね。
こうやって整理してみると、今のアメリカの状況ともかなりの部分でリンクすることを実感しました。
ロック詩人Lou Reedのメッセージは今でも鮮烈です。
全曲紹介しときやす。
「Romeo Had Juliette」
本作らしいシンプルなロックンロールがオープニング。♪ロミオはジュリエットを求め、ジュリエットはロミオを求めた♪と歌われるオトナのラブソングです。
https://www.youtube.com/watch?v=q_Gy0IRf4uM
「Halloween Parade」
(当時を猛威を振るった)AIDSの感染者にゲイや麻薬の常習者が多く、その感染者に対する社会的偏見を念頭に、毎年ハロウィン・パレードに来ているはずの君が居ない(多分、AIDSに感染し死去した)と嘆くフォーキー・チューン。
https://www.youtube.com/watch?v=b-01fRdvyRw
「Dirty Blvd.」
シングル曲。ヒットしたわけではありませんが、本作を代表する1曲として人気を誇ります。N.Y.の大富豪とホームレスを対比的に描いたロック詩人Lou Reedらしい1曲。簡にして要を得たロック・サウンドとLouの囁きヴォーカルがよくマッチしています。Dion DiMucciがドゥーワップ調コーラスで参加しています。
https://www.youtube.com/watch?v=882PXtcOW30
「Endless Cycle」
カントリー調サウンドをバックに、虐待を受けた親は我が子を虐待する、という悲劇のエンドレス・サイクルを歌います。
https://www.youtube.com/watch?v=Teo8S1nV0tI
「There Is No Time」
祝福の時ではない!握手している場合ではない!正しいか間違っているか議論してる場合じゃない!時間がない!という社会が抱える問題を一向に解決できない苛立ちをロック・サウンドにぶつけています。
https://www.youtube.com/watch?v=HviR-h5aLBE
「Last Great American Whale」
米国ライフル協会の会員によって殺される大鯨の話を通して、ネイティヴ・アメリカンへの差別を提起しています。人種差別に銃規制、未だに解決できていないアメリカの闇を感じます。
https://www.youtube.com/watch?v=Oua4ysqIFlY
「Beginning of a Great Adventure」
Lou Reed/Mike Rathke作。LouとMikeのギターが織りなすジャジー&ブルージーな仕上がり。この曲に限っては歌詞よりサウンドを楽しむ1曲かもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=p2iXztQdi2E
「Busload of Faith」
少しアーシーでドライブ感のあるロック・サウンドが格好良いですね。Mike Rathkeのギターがサイコー!(N.Y.では)誰にも、何処にも頼ることはできない!だから信念が必要だ、と街に潜むリスクと生きづらさを嘆きます。
https://www.youtube.com/watch?v=iFCzhzHydxk
「Sick of You」
架空のニュース報道を歌ったカントリー調の1曲。歌詞には当時から不動産王として有名人であったドナルド・トランプの名も登場し、揶揄されています。
https://www.youtube.com/watch?v=K71cCGJvdEY
「Hold On」
当時のN.Y.の治安の悪さが歌われます。80年代N.Y.の黒人への差別的行動の被害者であるエレノア・バンパーズ、ボクシングの元ヘビー級王者マイク・タイソンの名も登場します。この曲はロックというよりHip-Hopかもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=S06ASxOGiVk
「Good Evening Mr. Waldheim」
曲調的に当時から好きだった軽快なロックンロール。タイトルは当時のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世による(元ナチス将校で)当時のオーストリア大統領クルト・ヴァルトハイムへの親しみを込めた呼びかけを揶揄したもの。それ以外に当時政治的影響力の大きかった黒人牧師ジェシー・ジャクソンにも厳しいメッセージを浴びせます。
https://www.youtube.com/watch?v=ZayRNOAyRE4
「Xmas in February」
ベトナム戦争で片腕を失った帰還兵の悲哀を歌ったもの。しみじみとしてしまいます。
https://www.youtube.com/watch?v=8errgahvy3c
「Strawman」
スケールの大きなロック・サウンドと共に、少女買春スキャンダルを起こしたキリスト教宣教師ジミー・スワガートを引き合いに、政治家、スペースシャトル、ロックスターを糾弾します。
https://www.youtube.com/watch?v=J7-9jA6BW8o
「Dime Store Mystery」
ラストは1987年に亡くなったAndy Warholの死をテーマにしたもの。偉大なポップアート旗手であり、The Velvet Undergroundのデビューに手を貸したWarholの死を、仏陀、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌさらにはデカルトやヘーゲルといった哲学者まで登場させて歌います。
https://www.youtube.com/watch?v=f65VuwIlft0
Lou Reed、The Velvet Undergroundの過去記事もご参照ください。
The Velvet Underground & Nico『The Velvet Underground & Nico』(1967年)
The Velvet Underground『White Light/White Heat』(1968年)
The Velvet Underground『The Velvet Underground』(1969年)
『Transformer』(1972年)
『The Blue Mask』(1982年)
上記以外に、Lou Reedのアルバムから何枚かピックアップしておきます。
『Berlin』(1973年)
『Rock n Roll Animal』(1974年)
『Coney Island Baby』(1975年)
『Street Hassle』(1978年)
『Live in Italy』(1984年)
Lou Reed & John Cale『Songs for Drella』(1990年)
『Ecstasy』(2000年)