発表年:2021年
ez的ジャンル:ハイブリッド女性SSW×中東/トルコ音楽
気分は... :こういう進化もあったか!
一昨日の投稿でブログの大きな方針転換を宣言しましたが、日曜の新作紹介はできる限り継続するつもりです。
注目の女性シンガー・ソングライターBecca Stevensの最新作Becca Stevens & The Secret Trio『Becca Stevens & The Secret Trio』です。
ノースカロライナ出身、N.Y.のニュースクール大学でジャズ・ヴォーカルを専攻した女性シンガー・ソングライターBecca Stevensについて、これまで当ブログで紹介したのは以下の5枚。
Becca Stevens Band『Weightless』(2011年)
Becca Stevens Band『Perfect Animal』(2014年)
Tillery『Tillery』(2016年)
『Regina』(2017年)
『Wonderbloom』(2020年)
本作『Becca Stevens & The Secret Trio』は、タイトルの通り、Becca StevensがThe Secret Trioと共演したアルバムです。
The Secret Trioは、アルメニア人のAra Dinkjian(oud)、マケドニア人のIsmail Lumanovski(clarinet)、トルコ人のTamer Pinarbasi(kanun)によるトリオ。
oud(ウード)やkanun(カーヌーン)は、中東の古典音楽で使われる代表的な撥弦楽器です。ウード、カーヌーンに加えてナーイという無簧の笛を用いれば、アラブ古典音楽の編成になります。しかしながら、ナーイではなくクラリネットを用いた編成にし、バルカン・ジャズ的なエッセンスを融合させているところがThe Secret Trioの面白いところ、ジャズ的なところかもしれません。
The Secret Trioとして、これまで『Soundscapes』(2012年)、『Three Of Us』(2015年)という2枚のアルバムをリリースしています。また、3人はThe Secret Trio以外にもそれぞれ多様な演奏活動をしているトップ・ミュージシャンたちです。
今回の共演のきっかけは、2019年2月にUSマイアミで開催された、Snarky PuppyのMichael League主催の音楽イベント。
同イベントに参加したThe Secret Trioのライヴを観たBeccaが感動し、彼らにラブコールを送ったことで実現したものです。
プログラミングやエレクトロニクスを駆使した楽曲やダンサブル・サウンドが印象的であった前作『Wonderbloom』(2020年)の方向性から180度方向転換した、美しい音色に魅せられるアコースティック回帰のフォーキー・ジャズ作品に仕上がっています。
プロデュースは今回の共演のきっかけをつくったMichael League。
共同プロデュースはBecca StevensとNic Hard。
Becca Stevens(vo、g、charango、ukulele)とThe Secret Trio以外に、Michael League(moog b、back vo、g)、弦楽四重奏団Attacca Quartetのチェロ奏者であるNathan Schrame(back vo)がレコーディングに参加しています。
The Secret Trioならではの中東/トルコ音楽のエッセンスが、ハイブリッドなBeccaのジャズ・ワールドに新たな進化をもたらしています。あくまで静かなる進化ですが。
もっとも、中東/トルコ音楽のエッセンスなど気にせずとも、新感覚のフォーキー・ジャズとして楽しめるところが魅力だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Flow In My Tears」
Nahapet Kuchak/Becca Stevens/Michael League作。アルメニアの詩人Nahapet Kuchakの詩を用いています。揺らめきながら響く透明感のある弦の音色が心地好いです。聴いていると、体中の不純物が浄化されていくような気分になります。
「Bring It Back」
Nahapet Kuchak /Becca Stevens, Michael League作。この曲でもNahapet Kuchakの詩を用いています。Beccaらしい多重コーラスと中東的エッセンスが相俟って醸し出すミステリアス・ワールドがたまりません。
「We Were Wrong」
Becca Stevens/Michael League作。イントロが始まった途端、異世界に降り立った気分になるミステリアスな演奏です。Beccaの多重コーラスとThe Secret Trioの演奏がケミストリーを起こした素晴らしい1曲に仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=CaML9CvP2JY
「California」
US男性シンガー・ソングライターPaul Curreriの作品をカヴァー。オリジナルは『California』(2009年)収録。Beccaのフォーキー・ワールドにThe Secret Trioならではの演奏が加わることで、さらに深遠なフォーキー・ワールドが展開されます。
https://www.youtube.com/watch?v=NaAAPR2uqF8 ※Live Performance Video
「Eleven Roses」
Ismail Lumanovski作。The Secret Trioの音世界にブルガリアン・ヴォイスのエッセンスを加味したハイブリッド・ワールド・ジャズ。ブルガリアン・ヴォイスは80年代後半から90年代前半のワールド・ミュージック・ブームのときに話題になりましたね。当時、僕もブルガリアン・ヴォイスのCDを購入して、その独特の女声合唱に魅せられていました。Beccaファンにとっては、Tillery的な雰囲気が加わった感じがします。作者Ismail Lumanovskiのクラリネットの味わいもいいですね。
「Lucian」
Tamer Pinarbasi/Becca Stevens/Michael League作。The Secret Trioならではの中東ジプシー・ジャズ・ワールドを満喫できるミステリアスな演奏です。
「Pathways」
Becca Stevens/Rainer Maria Rilke作。オーストリアの詩人Rainer Maria Rilke(1875-1926年)の詩を用いた1曲。本作らしい深遠なフォーキー・ジャズに仕上がっています。
「Maria」
Becca Stevens/Michael League作。美しいヴォーカル・ワークを活かした、このメンバーならではのハイブリッド・フォーキー・ジャズに仕上がっています。
「Lullaby For The Sun」
Ara Dinkjian作。中東フォーキーとでも呼びたるなるような音世界。太古の時代に誘ってくれるような雰囲気がいいですね。
「The Eye」
Nikola Madzirov/Becca Stevens/Michael League作。マケドニアの詩人Nikola Madzirovの詩を用いています。美しい音色と美しい歌声が織り成すピュアな雰囲気に癒されます。
https://www.youtube.com/watch?v=dCQCIeU-oNs
「For You The Night Is Still」
Jane Tyson Clement/Becca Stevens作。アメリカの女性詩人Jane Tyson Clement(1917–2000年)の詩を用いています。現在制作中のBeccaと弦楽四重奏団Attacca Quartetとのコラボ作品にも収録される模様です。そのAttacca Quartetのチェロ奏者であり、BeccaのパートナーでもあるNathan Schrameがバック・コーラスで参加。Beccaのフォーキー・ジャズの進化形といった雰囲気です。音のない間を生かした引き算ジャズなのがいいですね。
Becca Stevensの他作品もチェックを!
Becca Stevens Band『Tea Bye Sea』(2008年)
Becca Stevens Band『Weightless』(2011年)
Becca Stevens Band『Perfect Animal』(2014年)
Tillery『Tillery』(2016年)
Becca Stevens『Regina』(2017年)
David Crosby, Becca Stevens, Michelle Willis, Michael League『Here If You Listen』(2018年)
『Wonderbloom』(2020年)
Becca Stevens & Elan Mehler『Pallet on Your Floor』(2021年)