2007年11月18日

Radiohead『Kid A』

ロックを否定したロック・バンドによる衝撃作♪Radiohead『Kid A』
Kid A
発表年:2000年
ez的ジャンル:虚無系オルタナ・ロック
気分は... :絶望の向こうにあるものは...

寒くなってくるとRadioheadが聴きたくなってくる....

年末にリリースされる4年ぶりの7thアルバム『In Rainbows』が期待されるRadioheadですが、今回は最近たまたま頻繁に聴いている『Kid A』(2000年)を紹介したいと思います。

Radioheadを紹介するのは『OK Computer』(1997年)に続き2回目となります。

正直、Radioheadに心酔する若いリスナーの方ほど、僕はRadioheadのことを詳しくは知らないし、思い入れも強くないのかもしれません。

それでも現在のロック・シーンに無関心な僕が唯一新作が気になるアーティスト、それがRadioheadです。何だかんだいって彼らの作品は殆どマイ・コレクションにあります。

今回、『Kid A』を取り上げたのは、最近たまに観る海外TVドラマ『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』シリーズの日本語版エンディングでオープニング曲「Everything in Its Right Place」が使われていたためです。それがきっかけで数年ぶりに『Kid A』を聴いたら、そのままハマっています(笑)

前作『OK Computer』(1997年)で電子楽器の導入により、美しくも儚い音空間の構築に成功したRadioheadが、よりポスト・ロック的な音響派の世界へ踏み込んだ作品が『Kid A』ですね。

『Kid A』というのは、近未来における“名も無き少年”、すなわちクローン人間のことを指していると理解しています(僕の理解が間違っていたならばゴメンナサイ)。

そうした人間としてのカタチを持ちながら、人間としてのココロを持たない(持てない)虚しさ、虚無感のようなものが、アルバム全体を支配しているように思えます。これが音の面でも無機質なサウンドとなって表れています。その意味では、絶望的なくらいにブルーになる作品ですね。

このあたりが、同じような儚いムードを持ちながらも、一方で美しくエモーショナルなサウンドに救われた『OK Computer』からの大きな変化だと思います。

個人的には、絶望的な『Kid A』よりも救いのある『OK Computer』の方が断然好きでした。なので、『OK Computer』は毎年寒い季節になると好んで聴いていましたが、『Kid A』は余程の気分にならないと聴くことはありませんでした。

しかし、今回久々に『Kid A』を通しで聴いてみて、このやり場のない虚無感に包まれたサウンドは21世紀に入ってからの時代の空気感を見事に表現しているように思えてきました。

本作『Kid A』の発売と前後して“ロックなんてゴミ音楽だ”と発言したリーダーThom Yorkeの心情は何となく理解できます。彼はロックそのものを否定したのではなく、時代の空気を表現しきれない形式的なロックを否定したかったのではと思います。

今の僕も現在のロック・シーンに対してかなり冷ややかです。Thom Yorkeの発言のように“ロックなんて退屈な音楽だ”というスタンスです。でも、ロックを拒絶しているわけではなく、この閉塞感を打ち破ってくれるロック作品の登場を心の何処かで待ち望んでいます。

Pink Floyd『Wish You Were Here』『Kid A』のようなアルバムが聴きたくなるなんて、今の僕の心は病んでいるのかもね(笑)

全曲紹介しときヤス。

「Everything in Its Right Place」
アルバム全体の雰囲気を象徴するオープニング曲。虚無感に充ちた無機質な電子音と声にならない心の叫びのようなThom Yorkeのヴォーカルが脳裏から離れなくなりますね。

前述の『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』のエンディング・テーマ以外にTom Cruise主演の映画『Vanilla Sky』のサントラにも収録されていますね。

「Kid A」
これはもう完璧にポスト・ロック/エレクトロニカの世界ですね。最期にKid Aの産声が聞こえますが、とても人工的なのが悲しくなりますね。

「National Anthem」
個人的には「Everything in Its Right Place」と並ぶお気に入り曲です。不気味に響くベース・ラインが印象的ですね。狂った世界の見せかけだけの盛り上がりみたいな虚しさがありますね。Pink Floyd的な世界に通じるものがありますね。

「How to Disappear Completely」
Thom Yorke自身かなりお気に入りの曲みたいですね。アコースティックなサウンドでアルバムの中では珍しく美しく穏やかな雰囲気を持っていますね。それでも♪I'm not here♪This isn't happening♪という歌詞に虚しさが漂っています。

「Treefingers」
この曲はアンビエントですね。Brian Enoでも聴いているみたい。

「Optimistic」
この曲では、しっかりギター・バンドとしてロックしていますね。強者が弱者を飲み込んでしまう、今でいう勝ち組、負け組の格差社会を痛烈に皮肉っていますね(曲タイトルからしてそうですからね)。♪If you try the best you can♪The best you can is good enough♪という歌詞が全く救いなっていないですからね。

「In Limbo」
個人的には、この曲もかなり印象的です。現実と空想を行き来する不透明感が見事に表現されていますね。クラブ系アーティストによるRadioheadのカヴァー・アルバム『Exit Music Songs With Radio Heads』の中でSa-ra Creative Partnersがカヴァーしています。

「Idioteque」
この曲は人気曲ですね。聴き手に突き刺さるような鋭利なビートは、押さえ込まれていた感情を爆発させたKid Aの心臓の鼓動のように聴こえてきます。

「Morning Bell」
絶望感に充ちた救いようのない曲ですね。だからこそ美しく聴こえるのかも?『Amnesiac』にも別バージョンが収録されていますが、本作のバージョンの方が居心地の悪い無機質感があるような気がします。

「Motion Picture Soundtrack」
エンディングでやっと絶望から救われます。しかし、それは赤いワインと睡眠薬による救い=自殺というもの。♪来世でまた会おう♪という言葉を残して....来世は虚無の世界ではないことを願って

最初にジャケの光景が映し出される本曲のPVも印象的でしたね。観ていて自分の心が泣いているのがわかります。

なんで、こんな絶望的なアルバムに惹かれるのでしょうね?
『Kid A』で描かれた虚しい世界は、今の世の中そのものなのかもしれません。

ちなみに村上春樹の長編小説『海辺のカフカ』に本作『Kid A』が出てくるようですね。

Thom Yorkeは村上春樹のファンであり、村上春樹もRadioheadファンであるという相思相愛の関係みたいですね。僕はまだ未読なのですが、ダークな世界観が『Kid A』と共通するのかもしれませんね。機会があれば読んでみたいと思います。
posted by ez at 08:51| Comment(0) | TrackBack(1) | 2000年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

レディオヘッド『Kid A』(2回目)
Excerpt: Radioheadの4thアルバム『Kid A(キッドA)』。2000年発表。 このアルバムを聴き込んだのは実に久しぶりでした。正直に言うと今まで真剣に聴いてこなかった盤です。どうもアティチュー..
Weblog: ROCK野郎のロックなブログ
Tracked: 2007-12-28 09:15