発表年:1980年
ez的ジャンル:「技術×民族×社会派」系ロック
気分は... :溶けていく...
今回はPeter Gabrielの名作3rdアルバム『Peter Gabriel III』(1980年)です。
Peter Gabrielは1950年イギリス、サリー州生まれ。1967年にGenesisを結成し、1969年にアルバム『From Genesis to Revelation』でデビュー。バンドのフロントマン、ヴォーカリストとして、奇抜なファッションやメイク、劇場パフォーマンスの要素を取り入れたライブで人気を博しました。
バンドの人気は着実に上昇し、『Foxtrot』(1972年)、『Selling England by the Pound』(1973年)、『The Lamb Lies Down on Broadway』(1974年)といったヒット作を生み出しますが、1975年にグループを脱退します。
1977年よりソロ活動を開始します。1980年代に入るとシンセ・サウンドの導入や民族音楽への接近といった独自のアプローチを見せます。1986年の5thアルバム『So』が世界的に大ヒットし、シングル「Sledgehammer」も初の全米ポップ・チャート第1位となりました。
Phil Collinsのエントリーでも書きましたが、僕がGenesisを聴いたのは、アルバム単位では『Abacab』(1981年)からの数枚程度で、それ以前のGenesisは全く聴いたことがありません。当然ながら、Peter Gabriel在籍時のGenesisも全く未聴です。ライブの写真を観たことがある程度です。
Peter Gabrielのソロも、全米Top40に入ったシングル「Shock the Monkey」を聴いたぐらいで、「Sledgehammer」の大ヒットがあるまでは殆どノー・チェック状態でしたね。自分のコレクションにGabriel作品が並ぶようになったのはCD時代になってからです。
現段階で僕がよく聴くGabriel作品は、『III』(通称"Melt")、『IV』("Security")の2枚です。大ヒットした『So』はあまり聴きませんね。
今回は『III』をセレクトしました。
このアルバムは“好きなアルバム”というよりも、“聴くべきアルバム”というのが、僕の中での位置づけですね。
プロデューサーSteve Lillywhite、エンジニアHugh Padghamという強力コンビによるドラムのゲートエコーは80年代サウンドの主流となり、民族音楽のエッセンス導入は80年代後半のワールド・ミュージックの台頭を予見し、反アパルトヘイト等の社会メッセージを世界中の音楽ファンへデリバリーした...と様々な点で80年代を代表する1枚と呼べる作品だと思います。
Kate Bush(vo)、Robert Fripp(g)、Paul Weller(g)、Dave Gregory(XTC)(g)、Tony Levin(b)、Phil Collins(ds)等Gabrielらしい人選のゲスト陣も興味深いですね。
僕の場合、ポップ・ロック調の楽曲よりも、実験的な曲やメッセージ性の強い曲に惹かれてしまうのですが、全体的にはバランスの良い構成になっていると思います。個人的には、もっと実験的な曲が多くても良かった気もしますが、それではUKアルバム・チャート第1位になっていなかったかもしれませんね。
全曲紹介しときヤス。
「Intruder」
これが当時の音楽シーンにインパクトを与えたゲートエコーのドラム音です。今聴いてもどうってことない音ですが、この重量感のあるサウンドでSteve Lillywhite、Hugh Padghamの二人は人気プロデューサーとなり、音楽シーンはゲートエコーのドラムだらけになっていきます。
この曲の面白さは、そうした最新テクノロジー・サウンドとマリンバのようなエスニックな楽器の音色を融合させて、アヴァンギャルドに仕上げている点だと思います。
「No Self-Control」
この曲はシングルにもなりました。この曲もマリンバが大活躍しています。1982年から世界最大規模の音楽フェスティバル"WOMAD(World of Music, Arts and Dance)" を主宰し、ワールド・ミュージックの普及に尽力したことは、Gabrielの大きな功績の1つだと思いますが、そうしたワールド・ミュージック的アプローチが本曲にも反映されていると思います。
「Intruder」、「No Self-Control」は、当時なかなかインパクトのある2曲だったのでは?。
「Start」
Dick Morrisseyのサックスをフィーチャーした約1分半の小曲。
「I Don't Remember」
「Family Snapshot」
「And Through The Wire」
キャッチーなポップ・ロック3曲。「I Don't Remember」はフツーにカッチョ良いですね。「Family Snapshot」には哀愁感が漂います。「And Through The Wire」は一番キャッチーな曲かも?3曲共に聴きやすいですが、1、2曲目のような面白さは少ないかもしれませんね。
「Games Without Frontiers」
シングル・カットされ、UKシングル・チャートの第4位となったヒット曲(UKチャートでは「Sledgehammer」と並ぶ最高位)。子供達のゲームをモチーフに世界情勢に鋭いメスを入れたメッセージ・ソング。今から28年前の曲ですが、そのメッセージは現在の世界にも充分通用するものなのでは?バック・コーラスはKate Bushです。
「Not One Of Us」
GabrielのヴォーカルとPhil CollinsのドラムというGenesisの新旧フロントマンが目立つポップ・ロック。その意味ではGenesisっぽさもある1曲なのでは?
「Lead A Normal Life」
淡々としたアンビエント風の展開が印象的な曲ですね。Gabrielのヴォーカルと実にマッチしたサウンドだと思います。
「Biko」
Gabrielのキャリアを代表するアフリカン・テイストの名曲。タイトルのBikoとは、反アパルトヘイト運動に尽力し、1977年に拷問により死去した南アフリカ人の黒人活動家Steve Bikoのことです。世界中の音楽ファンの視線をアパルトヘイトが依然と続いていた南アフリカに集めた曲として、単なる名曲に止まらない重要曲ですよね。当時本アルバムを聴いていなかった僕でさえ、「Biko」 がアパルトヘイトをテーマにした曲だということは知っていましたから。
ちなみにSteve Bikoを描いた映画として、Richard Attenborough監督、Denzel Washington主演の『Cry Freedom(邦題:遠い夜明け)』があります。ご興味のある方はどうぞ!
ジャケ好きの僕としては、Hipgnosisによる『I』(通称"Car")、『II』(通称"Scratch")、『III』のジャケ・デザインも大好きです。
遠い夜明けはロードショーで見ました。白状すると途中意識のない時間が少々。長い映画でした。でもそのころ私の中では無名だったデンゼルワシントンが信念を曲げないBIKOを演じたのは”ガンジー”のベンキングズレーに勝るとも劣らない名演と思っています。
このアルバムを購入したのは偶然ですが1988年。映画を観たのと同じ大学4年生の時でした。内容をよく知らないまま、Genesisの1970年代のアルバム9枚、前作”2”とともに購入しました。個人的には大好きな5th”SO”に比較すると地味なアルバムとの印象でいましたが、90年代の半ばになって聴き直してみて一時サルのように聴いた時期がありました。今回聴きなおすとezさんのおっしゃる通り、ドラムの音に特徴があるのですね。すべてではないのでしょうが、フィルコリンズの音ということは今回初めて知りました。NO SELF CONTROLに取り入れられたアフリカンビート?はやがて発展して”SO”の1曲目”red rain”のマヌカシェのドラムにつながっていったんでしょう。
久し振りに聴きなおして、悩み多きあのころの気持ちを少し思い出しました。
時は流れ、南アフリカはFIFAワールドカップが開催される国になり、私はおじさんになりました。
ありがとうございます。
> 遠い夜明けはロードショーで見ました。途中意識のない時間が少々
まさに『遠い夜明け』だったのですね(笑)
> ドラムの音に特徴があるのですね。
> フィルコリンズの音ということは今回初めて知りました。
本作の翌年にリリースされたPhil Collinsの1stソロ『Face Value』(Hugh Padghamプロデュース)でも本作の経験を活かしたゲートエコーを聴くことができます。あとは本作参加のDave GregoryのグループXTCが本作と同年にリリースした『Black Sea』(Steve Lillywhiteプロデュース)もゲートエコーを取り入れた作品として有名です。
これら3枚を聴き比べてみるのも楽しいかもしれませんね。
> 時は流れ、南アフリカはFIFAワールドカップが開催される国になり
そうですね。そう思うと感慨深いですよね。
本作がリリースされた頃には、誰も南アでW杯が開催されるなんて思いませんでしたからね。当時は日本でW杯が開催されることも想像できませんでしたが(笑)