2008年05月10日

Arto Lindsay『Prize』

ブラジル人のDNAが組み込まれたアメリカ人☆Arto Lindsay『Prize』
プライズ
発表年:1999年
ez的ジャンル:ブラジル音楽+アヴァンギャルド・サウンド
気分は... :静けさと過激さと...

今回はArto Lindsayの1999年作品『Prize』の紹介です。

これまでPeter SchererとのユニットAmbitious Loversは紹介しましたが、Arto Lindsayのソロ・アルバムは初めてになります。

Arto Lindsayは1953年ニューヨーク生まれのギタリスト/シンガー。牧師だった父親の任務の関係で3歳から15年間ブラジルで過します。1978年にニューヨークでD.N.Aを結成、NYアンダーグラウンドの金字塔的アルバム『No New York』でのノー・チューニングによるノイズ・ギターは大きなインパクトを与えました。

その後、Lounge Lizards、Golden Palominos等での活動を経て、Peter SchererのユニットAmbitious Loversを結成し、『Envy』(1984年)、『Greed』(1988年)、『Lust』(1991年)と3枚のアルバムをリリース。パンク、ファンク、ジャズ、ブラジルなどさまざまな音楽がカオス状態で詰め込まれているアヴァギャルドなサウンドを披露してくれました。

90年代半ばからはソロ活動を開始し、『The Subtle Body (O Corpo Sutil)』(1995年)、『Mundo Civilizado』(1996年)、『Noon Chill』(1997年)、『Prize』(1999年)、『Invoke』(2002年)、『Salt』(2004年)といった作品を発表しています。

また、Caetano VelosoMarisa Monte、Gal Costa、Carlinhos Brown等ブラジルのトップ・アーティストのプロデュースも数多く手掛けています。

さらに、坂本龍一との親密な交流をはじめ、テイ・トウワ、葉加瀬太郎、大貫妙子、中谷美紀、ゲイシャ・ガールズ、UA、ゴンチチのプロデュース等日本人アーティストとのつながりも多い人ですね。

本国アメリカ以上に日本で人気のあるアーティストの1人ですよね。

Ambitious Loversのエントリーの時にも書きましたが、我が家のCD棚において、Arto Lindsayのソロ作品はUSロックとブラジル/ラテンの棚を行ったり来たりしており、置き場所が一定しません。どちらのコーナーに置いても違和感があるんですよね。それだけ個性的な存在のアーティストなんでしょうね。

基本はブラジルなんだけど、ボッサ/サンバなサウンドの中から時折顔を見せるアヴァンギャルドな展開は、Arto Lindsayにしか創り出せない世界だと思います。ブラジル音楽とアヴァンギャルド・サウンドという相容れないように思える要素を、見事に融合させてしまうのがいいですよね。

Arto Lindsayの場合、アメリカ人でありながらブラジル人のDNAが半分組み込まれているような人なので、ブラジリアン・サウンドが実に馴染んでいますよね。上っ面のブラジリアン・テイストでないあたりも好感が持てます。

彼の作品は全てお気に入りであり、特に自分の中の優劣はないのですが、ブラジル的な要素とアヴァンギャルドな要素が一番バランスしている作品として『Prize』をセレクトしました。

プロデュースは、前作『Noon Chill』に続きArto Lindsay本人とAndres LevinMelvin Gibbsの3人。ここにDavi Moraes(g、per)、Skoota Warner(ds)の2人を加えた5人が基本的なレコーディング・メンバーです。ブラジルで曲作り、基本的なトラックの録音を行い、ニューヨークに戻って仕上げたようです。さりげにBrian Enoもゲスト参加しています。

ボーナス・トラックを含めた全13曲中5曲がポルトガル語、残りが英語で歌われています。

オススメ曲を紹介しときやす。

「Ondina」
ネオ・ボッサなオープニング。穏やかななんだけど、基本的に"陽"ではなく"陰"な感じがArto Lindsayらしくて好きです。今回聴いてみて、Sam PrekopThe Sea and Cake等のシカゴ系ポスト・ロックあたりとの共通項もあるのかな?なんて思いました。

「Prize」
タイトル曲はロック・テイストの強い仕上がり。ノイジーなArtoのギターも聴けます。Artoのアルバムならば、このギターを聴きたいですよね。ストリングスがサウンドの表情を豊かにしてくれます。

「Pode Ficar」
フツーにMPB感覚で聴けるサンバ・チューン。Artoの弱々しいヴォーカルとポルトガル語って実にマッチしていますね(笑)

「Prefeelings」
ブラジル音楽とアヴァンギャルド・サウンドが融合したArto Lindsay流ポスト・ロックといった仕上がりです。パーカッシヴなリズムにのった過激な世界を堪能できます。

「Modos」
「O Nome Dela」
NY在住のブラジル人アーティストVinicius Cantuariaとのコラボ2曲。アーティスティックなネオ・ボッサを聴かせてくれます。

「Ex-Preguica」
全体を漂う美しくも憂鬱なムードがいいですね。Steve Barberアレンジのストリングスが絶品です。

「Unsure」
アンビエント&ドラムン・ベースな1曲。こういった曲をやっても全然違和感がないですよね。

「Resemblances」
Arto Lindsayだからこそ作れるネオ・ボッサ。音の拡がりがいいですね。Brian Enoがゲスト参加しています。

「Tone」
アルバムで一番のお気に入り。フューチャー・サンバといった仕上がりです。クラブ系の音が好きな人ならば気に入る1曲だと思います。

「E Ai Esqueco」
Ambitious Lovers時代の盟友Peter Schererの美しくも悲しげなピアノが印象的です。

「Porno Samba」
日本盤のボーナス・トラック。タイトルが過激ですね。ギターの弾き語りでArtoがビミョーな歌詞を爽やかに歌ってくれます(笑)

弱々しい風貌と過激な音楽のギャップが楽しい人ですよね。
posted by ez at 01:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 1990年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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